フリーランスが加入する社会保険とは? 社会保険制度についても解説

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これからフリーランスになろうとする方は、いろいろな手続きが必要になります。特に社会保険に関することが気になる方が多いのではないでしょうか。フリーランスであっても公的医療保険や年金に加入し保険料を負担しなくてはいけません。その代わり病気・けがをしても自己負担額は3割で済みます。ただし、フリーランスの加入する公的保険は、公務員や会社員の社会保険に比べると保障が薄い部分があるので注意が必要です。
また、会社員との大きな違いは、フリーランスは自分自身で公的保険について調べて、その手続きを自分で行わなければなりません。フリーランスの場合は、手続きに漏れがないように、自分で正しく把握しておく必要があります。以下で詳しく解説します。
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1.社会保険とは
(1)社会保険の種類
まず、社会保険(広義)とは、年金保険・公的医療保険・介護保険・雇用保険・労災保険の5つの保険の総称のことです。
また、年金保険・公的医療保険・介護保険の3つを合わせて「社会保険(狭義)」と呼び、雇用保険・労災保険の2つを合わせて「労働保険」と呼ぶこともあります。
(2) 年金保険
年金保険は、現役時代に保険料を支払って、老後に老齢年金を受け取る制度です。年金保険には、主に「国民年金保険」と「厚生年金保険」の二つがあります。
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国民年金
20歳以上の国民は全員、「国民年金保険」と呼ばれる、公的年金制度に加入することになっています。フリーランスの方は、原則こちらになります。
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厚生年金
企業に勤務している従業員や公務員は、「厚生年金保険」に加入します。
(3) 公的医療保険(健康保険、国民健康保険など)
公的医療保険とは、病気やケガによる休業や、出産などの医療費支出に備えるための公的な保険制度です。公的医療保険には、次の3種類があります。
①健康保険(協会けんぽ・組合健保)
会社員・公務員が加入します。
②国民健康保険(国保)
自営業者・フリーランス・無職の人が加入します。国民健康保険は、都道府県と市区町村が運営しています。
③後期高齢者医療制度
75歳以上の高齢者が加入します。
(4) 介護保険
介護保険は、被保険者に介護が必要と認定されたとき、必要な介護サービスを受けられる公的な保険制度です。
40歳以上の人は介護保険への加入が義務となっており、健康保険料と合わせて介護保険料を支払います。
(5) 雇用保険
労働者が失業した場合や育児・介護で休業する際の生活支援のための給付を行う公的な保険です。会社員・パート・アルバイト(一定の勤務条件を満たす必要あり)が加入します。
(6) 労災(労働者災害補償)保険
労災保険は、会社に雇用される労働者(正社員、パートやアルバイトなどすべての従業員)を対象とした公的な保険制度です。労働者は保険料を払う必要なく、会社が全額負担します。
勤務中や通勤途中に負ったケガや病気、死亡・高度障害状態となった場合に給付金が支払われます。
3.フリーランスと会社員の保険の違い
(1) フリーランスの場合
フリーランスと会社員とでは、加入する公的保険が違います。
フリーランスの場合は自営業となるため、国民年金、国民健康保険(40歳以上は介護保険も)に加入しなくてはいけません。
フリーランスの場合は、会社に勤めていないため保険料の会社負担は無く、保険料は全額自己負担となります。また、年金は会社員とは異なり受給額の上乗せがありません。
フリーランスは企業に雇用されていないため、労働保険には、原則として加入できません。
(2) 会社員の場合
会社員の場合、①健康保険、②厚生年金保険、③介護保険(ただし、一定の年齢になったら)・④雇用保険・⑤労災保険、全てに加入します。
保険料は原則として会社と折半して支払うことになっています。この点が、フリーランスとの大きな違いです。
4.フリーランスが加入できる一般的な公的保険
(1)国民健康保険
①手当
国民健康保険は公的な医療保険制度で、加入者は病気やけがの治療などの医療費の自己負担額が原則として3割です。
国民健康保険のデメリットとして、協会けんぽや健康保険組合で支給される「傷病手当金」や、出産前後一定期間における収入の低下または喪失に対する生活保障である「出産手当金」の支給を受けることができません。
②扶養制度
また協会けんぽや健康保険組合では、一定の条件を満たした扶養親族がいる場合は、扶養認定を受けて被扶養者となることで、その家族の保険料を負担することなく、保険給付を受けることができます。
しかし、国民健康保険では扶養認定の制度そのものがなく、世帯の1人ずつが被保険者となり所得に応じて保険料がかかります。家族が多いと保険料負担が重くなってしまうことも国民健康保険のデメリットの一つといえるでしょう。
③加入手続き
会社を退職してフリーランスになる場合、退職後すぐに市区町村役場の国民健康保険の窓口で加入手続きをする必要があります。住民票がある市区町村の国民健康保険担当窓口で手続きします。必要な書類は次の通りです。
・健康保険資格喪失証明書、退職証明書、離職票など
・本人確認書類(運転免許証など)
・マイナンバーの確認できる書類
なお、勤務先の健康保険証は退職日の翌日から使えなくなり、国保加入手続きをせずにいると無保険状態になってしまうため注意しましょう。
(2)国民年金
①年金の支払い
フリーランスなどの場合は、厚生年金には加入できず、国民年金のみに加入します。自身で国民年金保険料の全額の支払いを行います。国民年金保険料は定額ですので、原則として自身の収入に応じて掛け金(保険料)が増えることはありません。
会社員や公務員は、厚生年金保険や共済組合に加入することで自動的に国民年金保険にも加入します。保険料の半額を会社が負担するので個人負担は半分です。
厚生年金には扶養認定制度がありますが、国民年金にはありません。
②年金の受給
フリーランスの人は厚生年金がない分、年金受給額が会社員や公務員より少なくなります。
ただ、国民年金に上乗せして加入できるiDeCo(個人型確定拠出年金)という制度があります。この制度に加入することで、将来受け取れる年金額を増やすことができます。iDeCoの掛け金も確定申告することで、掛け金の全額を所得から控除することができます。
その他、老後の年金額を増やすために、国民年金加入者だけが利用できる制度として「付加年金」と「国民年金基金」がありますが、いずれも全額自己負担となります。付加年金と国民年金基金は制度上同時加入できないため、どちらか一方を選択しなければなりません。
(3)40歳以上は介護保険も
介護保険は、認知症や寝たきり、特定疾患などにおいて介護サービス費用の負担を軽減するための社会保障制度です。40歳以上の国民は介護保険に加入し、保険料を支払います。
フリーランスなど国民健康保険加入者の場合、介護保険料は所得などに応じて決められます。
会社員や公務員の場合は、給与・賞与に対して保険料率をかけた金額を会社と半額ずつ負担します。
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会社員時代の健康保険に任意継続することも可能
(1)任意継続とは
任意継続とは健康保険の任意継続制度のことで、退職などで会社を辞めたあとでも、最長2年間、従前の健康保険を継続できる制度です。
任意継続を希望する場合は、2ヶ月以上の被保険者期間が条件で、退職日の翌日から20日以内に手続きすれば、退職前と同じ健康保険に最長2年間の加入することができます。
ただし、任意継続では保険料を労使折半ではなく全額自己負担する必要があります。また、出産手当金や傷病手当金の給付を受けられなくなる点に注意が必要です。
扶養家族も引き続き同じ健康保険に加入できます。
(2)任意継続のメリット、デメリット
会社を退職してフリーランスになった場合、退職日までに継続して2カ月以上の被保険者期間があれば、元の職場の健康保険を最長2年限定で任意継続できます。この場合、国民健康保険と違って世帯ではなく加入者の1人分の保険料で済むことがメリットです。このため、扶養家族がいる場合は保険料が低く抑えられる可能性があります。扶養家族がいる人は検討する価値は十分あります。
ただし、任意継続は次のような点がデメリットです。
・ 保険料は全額自己負担
・ 保険料の支払いを1日でも滞納すると資格喪失
・ 傷病手当金や出産手当金は、原則もらえない
(3)任意継続の手続き
職場の退職日の翌日から20日以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」という書類を住まいの管轄の協会けんぽ支部の窓口に提出する必要があります。その際、退職日が確認できる書類として、次のいずれかを添付してください。
・退職証明書のコピー、雇用保険被保険者離職票のコピー、健康保険被保険者資格喪失届のコピー等、事業主または公的機関が作成した資格喪失の事実が確認できる書類
協会けんぽ参考リンク:https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3180/sbb3180/
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国民健康保険組合(国保組合)に加入する
フリーランスのための第三の選択肢として、同種同業者のための国民健康保険組合があります。国民健康保険組合は、特定の職業や業種に従事する人々が加入できる医療保険制度です。自治体の国民健康保険の保険料は前年の所得を反映しているのに対し、国保組合は固定料金制の場合が多く、フリーランスでも国民健康保険より保険料が安く済む場合があります。
国保組合は、医師、歯科医師、薬剤師、建設土木業者、アーティスト、芸能人、税理士、弁護士、飲食業者、美容業者などのフリーランスの人が加入できるものがあります。該当する業種の方は、加入をを検討してみましょう。
下記の参考リンクに、北海道医師国民健康保険組合や関東信越税理士国民健康保険組合、全国土木建築国民健康保険組合、東京理容国民健康保険組合など多数の組合が記載されています。
http://www.kokuhokyo.or.jp/page8-01.html
ただし、加入資格は職種や住所がかなり限定されています。まずは加入条件を各組合に確認してください。
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社会保険に替わる保険制度にも加入できる
自治体や日本年金機構が運営する社会保障制度の他にも、公的機関が運営する退職金制度などフリーランスが加入・利用できる制度がありますので、紹介します。
(1)小規模企業共済制度
フリーランスや自営業者向けの「退職金制度」である小規模企業共済制度は、独立行政法人 中小企業基盤整備機構が運営しています。積立式で、退職・廃業の際に共済金を受け取ることができます。共済金の受け取り方は「一括」「分割」「一括と分割の併用」が可能です。
掛け金は、確定申告の際は、その全額を課税対象所得から控除できるため、高い節税効果があります。
小規模企業共済には、個人事業の事業主とその共同経営者の方、また、小規模企業を経営している会社等の役員の方が加入できます。法人としての加入ができないことに注意が必要です。
参考:https://kyosai-web.smrj.go.jp/skyosai/index.html
(2)経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)
経営セーフティ共済は、「取引先の倒産」という不測の事態に直面した中小企業が、必要となる事業資金を速やかに借入れできる共済制度です。経営セーフティ共済は中小企業基盤整備機構が運営しています。加入者は掛金の10倍または上限8,000万円までの借り入れができ、連鎖倒産の回避の資金に充てることができます。
掛金月額は5,000円~20万円まで自由に選べ、増額・減額できます(ただし、減額には一定の理由が必要です)。また確定申告の際、掛金を損金(法人の場合)、または必要経費(個人事業主の場合)に算入できます。
経営セーフティ共済は、小規模企業共済と異なり、法人としての加入も可能です。
参考:https://kyosai-web.smrj.go.jp/tkyosai/index.html