個人が事業用資産を売却した場合の所得税の計算方法を解説
1,概要
個人事業主が事業で使用している資産(車、機械など)を売却することはよくあります。
法人であれば固定資産を売却した場合、利益が出れば固定資産売却益として利益を計上し、損が出れば固定資産売却損として損失を計上します。
しかし、個人事業主が事業用資産を売却した場合は、譲渡所得になります。法人のように損益計算書に計上することはしません。業務で使う資産であっても事業所得の計算に反映させないので、注意が必要です。
この譲渡所得は、総合課税として給与所得や事業所得と損益通算することが可能です。
(ただし、土地建物や株式等の譲渡は分離課税です。)
※損益通算とは、その年の各種所得の金額の計算上「不動産所得、事業所得、山林所得および譲渡所得」の金額に損失(赤字)が生じた場合、この損失額を他の黒字の各種所得の金額から控除できます。これを損益通算といいます。
2、個人が固定資産を売却した場合の所得区分
個人が固定資産を売却した場合は、たとえ事業用資産であっても、原則として、「事業所得」ではなく「譲渡所得」となります。具体的には、下記のように取扱います。
(1)事業として使用している固定資産を売却した場合
→譲渡所得として所得税が課税されます。
ただし、 使用可能期間が1年未満や取得価額10万円未満の減価償却資産、一括償却資産資産(取得価額が20万円未満の減価償却資産)を譲渡した場合は「事業所得」又は「雑所得」となります。
(2)生活に通常必要で、実際に使用している固定資産を売却した場合
→所得税は課税されません。
3,譲渡所得とは
(1)譲渡所得とは
譲渡所得とは、土地や建物、株式、車などの「資産を譲渡」することによって生じる所得のことです。
譲渡所得の対象となる資産には、土地、借地権、建物、株式等、金地金、宝石、書画、骨とう、船舶、機械器具、漁業権、取引慣行のある借家権、配偶者居住権、配偶者敷地利用権、ゴルフ会員権、特許権、著作権、鉱業権、土石(砂)などが含まれます。
なお、貸付金や売掛金
などの金銭債権は除かれます。
国税庁参考サイト
No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm
(2)総合課税と分離課税
譲渡所得には、その課税方法の違いによって、総合課税と分離課税の2種類があります。
- 総合課税とは
各種の所得金額を合計して所得税額を計算する制度のことです。
総合課税では、対象となる所得を一定の方法で合算したうえで、所得控除の合計額を控除し、その残額に所定の税率によって税額を計算します。
所得税の計算方法は
、この総合課税が基本となります。
対象となる所得は、給与所得、事業所得、不動産所得、配当所得、一時所得、雑所得、不動産や株式等以外の譲渡所得などです。
所得税の税率は、5~45%の累進税率、住民税は原則10%です。なお、個人が所得税をおさめる場合、2037年までは復興特別所得税(税率は2.1%)もかかります。
- 分離課税とは
一定の所得については、他の所得金額と合計せず、分離して個別に税額を計算し、確定申告によりその税額を納め
ることとなります。
退職金を受け取った場合や不動産を売却した時などは、一度に多額の所得が発生し、総合課税とすると、税負担が著しく大きくなってしまいます。そこで、税負担を軽減するために分離課税制度が設けられています。
分離課税方式の対象となる所得は主に以下の5つです。
- 配当所得
- 退職所得
- 山林所得
- 譲渡所得(不動産、株式の売却等)
- 先物取引
(3)長期譲渡所得と短期譲渡所得
総合課税の譲渡所得は、取得したときから売ったときまでの所有期間によって長期と短期の二つに分けられます。
長期譲渡所得となるのは、原則的には、所有期間が5年を超えている場合で、短期譲渡所得となるのは、所有期間が5年以内の場合です。
4,譲渡所得の計算方法
(1)方法
総合課税の譲渡所得の金額は次のように計算し、短期譲渡所得の金額は全額が総合課税の対象になりますが、長期譲渡所得の金額はその2分の1が総合課税の対象になります。
譲渡所得の金額 = 譲渡価額 - (取得費 + 譲渡費用)-50万円(特別控除)
(2)取得費
取得費とは、一般に購入代金のことです。このほか、購入手数料や設備費、改良費なども含まれます。ただし、減価償却資産にあっては、減価償却費相当額を控除した金額となります。
(3)譲渡費用
譲渡費用とは、売るために直接かかった費用のことです。仲介業者に支払った仲介手数料や契約書に貼付した印紙税などです。
(4)譲渡所得の特別控除
譲渡所得の特別控除の額は、その年の長期の譲渡益と短期の譲渡益の合計額に対して50万円です。その年に短期と長期の譲渡益があるときは、先に短期の譲渡益から特別控除の50万円を差し引きます。
なお、譲渡益の合計額が50万円以下のときは、その金額までしか控除できません。
国税庁参考サイト
No.3152 譲渡所得の計算のしかた(総合課税)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3152.htm
5,まとめ
個人事業主が業務用の固定資産を売却した所得は、総合課税の「譲渡所得」となります。
なおその固定資産を5年を超えて所有していた場合は、総合課税の長期譲渡所得となり、総所得金額に算入される(課税の対象になる)のは2分の1となります。
執筆者:税理士 渕上 肇