新NISAのメリットとデメリットについて 簡潔に
1,NISAの制度変更について
2024年から新NISAがスタートしました。旧NISAは非課税で個人の投資を支援する制度ですが、運用期間の制限や非課税枠の小ささなど、使いづらい点がありました。
しかし新NISAではそれらがほぼ全て改善され、非課税枠を使って投資できる利点はそのままに、投資枠を拡大し、非課税期間も無期限になるなど、使い勝手が大幅に良くなりました。
それでは、具体的に新NISAにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
新NISAのメリットは、次の通りです。
- 投資で得た利益に税金がかからない
- 二つのタイプの投資が併用可能
- 非課税保有期間の無期限化
- 売却すれば非課税枠が繰り返し使える
- いつでも引き出せる
- 確定申告が不要
新NISAのデメリットは、次の通りです。
- 元本割れの可能性がある
- 損益通算ができない
- 掛け金を所得控除できない
- 成長投資枠の対象商品が限定される
- 口座を開設できるのは18歳以上のみ
- つみたてNISA・一般NISAから商品を引き継げない
以下で、新NISAのメリットとデメリットについて個別に解説します。
2、新NISAのメリット
2024年1月スタートの新NISAは、旧NISAを改良し発展させた制度で、多くのメリットがあります。以下で、具体的に説明します。
①投資で得た利益に税金がかからない
株式や投資信託を通常の課税口座で取引をすると、配当や利益に対して20%(現在は復興特別所得税があるので20.315%)の税金がかかります。
一方、新NISAは株式や投資信託から得られる配当や売却益は、非課税となります。これがNISAの最大のメリットといえます。
新NISAでは、年間の非課税投資枠は決まっていますが、その範囲内なら何度も売ったり買ったりできます。ただし、非課税枠は単年度ごとにリセットされるため、ある年に使い残した枠はその年度で消滅します。
②二つのタイプの投資が併用可能
つみたて投資枠と成長投資枠を併用することで、投資に幅が生まれます。
つみたて投資枠では一定の金額を定期的に積み立てることで投資時期を分散しリスクを低減できます。成長投資枠ではある程度のリスクを覚悟で個別株の購入ができます。
このため、リスク度のバランスの取れたポートフォリオを構築することが可能になるでしょう。
また、金額的にも、少額積立て投資とまとまった投資の両方が可能となります。
③非課税保有期間の無期限化
旧NISAでは、購入した商品を非課税で保有できる期間が、一般NISAでは最長5年、つみたてNISAでは最長20年となっていました。
新NISAでは、非課税期間の制限がなくなります。新NISAはいつ投資を始めても、無期限で非課税のメリットを受けられる制度です。新NISAは非課税期間が無期限になるため、利益が出るタイミングまで保有し続けることができます。
④売却すれば非課税保有限度額が繰り返し使える
非課税保有限度額は1,800万円ですが、この1800万円という生涯投資枠は、その枠を使い切っても商品を売却すれば翌年には空いた分を再利用できます。
⑤いつでも引き出せる
新NISA口座は、確定拠出年金(DC)口座の資金と異なり、使途が自由でいつでも売却して現金化できるのが特徴です。
⑥確定申告が不要
新NISA口座で得られた利益については、確定申告は不要です。
そもそもNISA口座は、非課税であるためこれは当然とも言えます。
3,新NISAのデメリット
①元本割れのリスクがある
元本割れとは、投資した商品の価格が当初の購入金額を下回って損をしてしまうことをいいます。株式や投資信託などの金融商品の相場は常に動いています。新NISAでは、元本保証型の商品は設定されていないため、元本割れの可能性があります。ただし、元本割れの可能性はほかの投資でもありえることで、新NISAに限られません。
そうしたリスクを軽減するためには、分散投資が有効です。投資信託のようにあらかじめ投資する地域や銘柄が分散された商品を購入する、あるいは毎月などの定期的な積立投資を行って投資する時間(タイミング)を分散する、といった方法でリスク分散を図れます。
②損益通算・繰越控除ができない
一般口座の取引であれば投資の利益と損失を相殺することができますが(損益通算)、NISA口座の取引は他の課税口座とは損益通算ができません。課税口座で運用している金融商品をNISA口座に移すこともできません。
また、発生した損失を翌年に繰り越すこともできません。
つまり、利益が出ない限り税制上のメリットがないことになります。新NISAの非課税メリットは、利益が出ない限り意味がないことになります。
※1損益通算とは、譲渡益などの利益から、譲渡損などの損失を差し引くことができる制度です。
※2繰越控除とは、その年に控除しきれなかった損失を、最長3年間にわたって利益と通算できる制度です。
③掛け金を所得控除できない
税金の計算において「所得」とは、収入から経費を引いた金額を指します。「所得控除」は、収入から経費を引いた後の「所得額」からさらに差し引ける控除です。
すべての所得から所得控除額を差し引いて算出したものが課税所得金額です。この課税所得金額に税率をかけて所得税額を求めます。
確定拠出年金(DC、iDeCo)の掛け金は所得から控除されるので、その分、所得税や住民税を軽減する効果がありますが、NISAの掛け金については税制上のメリットはありません。
④成長投資枠の対象商品が限定される
新NISAの成長枠では、下記の条件に該当する銘柄が対象外となる見込みです。
- 整理・監理銘柄
- 信託期間が20年未満の投資信託
- 毎月分配型の投資信託
- デリバティブ取引を用いた一定の投資信託
一般NISAでは信託期間や分配方式への制限がなかったため、これまで非課税で投資できていたファンドも2024年以降は対象外となる可能性があります。新NISAの対象商品は投資信託協会より随時公表されていますので、ぜひチェックしておきましょう。
⑤口座を開設できるのは18歳以上のみ
新NISAで口座開設ができるのは、口座開設を行う年の1月1日時点で18歳以上の人に限られます。2023年までは、ジュニアNISAを活用して未成年でも非課税で投資ができましたが、新NISAでは未成年を対象とした非課税制度は設けられていません。
⑥旧NISAでのつみたてNISA・一般NISAから商品を引き継げない
2023年までの一般NISAでは、非課税期間満了の際にロールオーバーという手続きを行うことで、非課税期間の延長が行えました。しかし、2024年スタートの新NISAは、旧NISAとは別の制度となりますので、ロールオーバーが行えません。
したがって、2023年末までに購入した一般NISAの残高は、非課税期間満了までに売却するか、課税口座へ移管するかを選択しなくてはなりません。
4,新NISAと旧NISAの違い
- 旧NISAの概要
旧NISAは、2023年末までとなります。旧NISAでは、投資信託やETFの積立をする「つみたてNISA」と、株やETF、REIT、投資信託を買える「一般NISA」に分かれています。
「つみたてNISA」は非課税期間が20年間で、年間投資枠は40万円までです。「一般NISA」は非課税期間が5年間で、年間投資枠は120万円までとなります。
そして、つみたてNISAと一般NISAの併用はできません。どちらか一方しか利用できません。
さらに、保有している投資信託や株などを売却しても、非課税投資枠の再利用はできません。
- 新NISAの概要
旧「つみたてNISA」が「積み立て投資枠」に、旧「一般NISA」は「成長投資枠」という名称になり、併用可能になりました。これまでは、つみたてNISAと一般NISAは併用できませんでしたが、「積み立て投資枠」と「成長投資枠」は、併用できます。
「積み立て投資枠」で1年間に投資できるのは120万円、「成長投資枠」の年間投資枠は240万円となります。
非課税期間は無期限となります。
ただし、非課税保有枠は買付残高1800万円までとなります(うち成長投資枠は1200万円まで、つみたて投資枠は非課税保有枠内なら限度額なし)。
保有している投資信託や株などを売却した場合、売却した翌年には非課税保有枠を再利用できます。ただし、年間投資枠は再利用できません。
- ジュニアNISAの廃止
新NISAでは、ジュニアNISAが廃止となりました。旧NISAでは、ジュニアNISAも一般NISAと同様に非課税期間が5年でした。5年の非課税期間が終了する時には、新たなジュニアNISAの非課税枠にロールオーバーをすることで継続して非課税扱いで保有することができました。
しかし、2024年以降は、ジュニアNISAの新規取引ができなくなります。2024年以降はロールオーバー専用の非課税枠として新たに設けられる継続管理勘定で成人になるまで、非課税扱いで保有することができます。
5,まとめ
旧NISAには期限があったので、その年の非課税枠を全部使い切るスタイルになりがちでした。
しかし、新しいNISAでは、非課税投資枠がかなり大きくなり、非課税保有期間が無期限になりました。新NISAで長期投資行う場合においては、資産額が拡大するほど非課税メリットは大きくなり、複利運用との相乗効果で絶大なメリットになります。
新NISAの制度変更によって、最もメリットを受けられるのは「投資を長く続ける人」です。できるだけ早く投資を始めて、長く継続する人が新NISAの恩恵を享受できるでしょう。もちろん投資である以上、必ず利益を上げられるとは限りません。
ただし、間違った投資手法をせずに、長期的な目線で新NISAを活用できれば、資産形成の成功確率を高められるでしょう。
なお、長期の複利運用では、手数料などの運用コストの差も投資利回りへの影響を通じて複利で影響します。そのため長期投資の場合には、特に信託報酬など運用管理手数料には注意が必要です。
執筆者:税理士 渕上 肇