医療費控除とセルフメディケーション税制
目次
1.確定申告における医療費の控除
確定申告には、要件を満たすことで所得から一定金額を引き算できる「所得控除」があります。
医療費控除とは所得控除のひとつで、該当する年の医療費が一定の金額を超えている場合、所得金額から医療費の一定額を控除することができる制度です。医療費控除を利用するには、確定申告での手続きが必要です。会社に勤めている人も「年末調整」では控除を受けられないため注意しましょう。
また、医療控除と似た制度に、セルフメディケーション税制があります。疾病予防や健康のための取り組みを行っている場合に受けられる特例制度です。
医療費控除とセルフメディケーション税制は、適用される医療費の範囲が異なります。しかし、まったく別の制度ではなく、セルフメディケーション税制は医療費控除の特例として、扱われています。そのため、セルフメディケーション税制を受ける場合は、併用して医療控除の適用を受けることはできません。
2.医療費控除とは
医療費控除は、納税者本人や生計を一にする配偶者、その他の親族のために支払った医療費が一定額を超える場合に、所得からその超過分を控除できる制度です。これにより、所得税や住民税の負担を軽減できます。
(1)控除額の計算方法:
医療費控除額は以下の式で計算され、上限は200万円です。
医療費控除額 = 払った医療費の合計額-保険金などで補填される金額-10万円(※)
((※)総所得金額等が200万円未満の人は総所得金額等の5%)
例えば、年間医療費が50万円、保険金で10万円補填され、総所得金額が300万円の場合、医療費控除額は30万円となります。
(2)対象となる医療費
納税者が、自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費で下記のものです。
・医師や歯科医師による診療費や治療費
・治療や療養に必要な医薬品の購入費
・通院のための交通費(公共交通機関の利用が原則)
・入院時の部屋代や食事代
・医療用器具の購入費(例: 義手、補聴器など)
・妊娠・出産に関する費用
ただし、美容整形や予防目的の費用、健康増進のためのサプリメント購入費など、治療目的でない支出は対象外です。
(※) 対象となる医療費には、治療や療養に必要な医薬品の購入の対価であれば、セルフメディケーション税制の対象となる医薬品の購入費も含まれます。
(3)申請方法
医療費控除を受けるには、確定申告が必要です。
申告時には「医療費控除の明細書」を作成し、申告書に添付します。医療費の領収書は自宅で5年間保管する必要があります。また、医療保険者から交付される医療費通知を利用すると、明細書の記載を簡略化できます。
さらに、マイナポータル連携を利用すると、医療費通知情報を自動入力でき、申告手続きがより便利になります。
(4)注意点
医療費控除は年末調整では適用されないため、必ず確定申告を行ってください。
セルフメディケーション税制(特定一般用医薬品等購入費を対象とした医療費控除の特例)との併用はできません。どちらか有利な方を選択してください。
3. セルフメディケーション税制
(1)セルフメディケーション税制とは
従来の医療費控除に加えて、2017年1月に「セルフメディケーション税制」が創設されました。この制度は、健康の維持・増進や病気の予防を目的に、日常的に健康管理を行う人を支援するための税制優遇措置です。
セルフメディケーション税制は、ドラッグストアなどで対象の成分が含まれる医薬品を年間12,000円以上購入した場合、超えた金額分が所得から控除され、その分の所得税・個人住民税が軽減されるというものです。
ただし、このセルフメディケーション税制は、通常の医療費控除との選択適用となります。この制度の適用を受ける場合には、通常の医療費控除を受けることができないので、注意が必要です。
(2)セルフメディケーションとは
身体の不調や健康への不安を感じたときだけでなく、日ごろから病気を予防し、健康の維持増進や管理をすることは、健康な生活を維持するために大切なことです。
自分の身体を自分で守るセルフケアの考え方は、超高齢社会における健康寿命の延伸や社会保障制度の維持、医療費の抑制という観点からも大切なことです。
セルフメディケーションとは、自分自身の健康に責任を持ち、軽度の病気やケガの際に自ら適切な医薬品や方法を選び、自分で手当てすることを指します。これは健康を維持し、医療資源を有効活用するための取り組みとして、世界保健機関(WHO)も推奨しています。
軽微な体調不良や症状に対して医療機関を利用する頻度を減らし、社会全体の医療費負担を軽減することも目的の一つです。
さらに、軽度の病気はセルフメディケーションで対応し、医療機関のリソースを重症者や緊急を要する患者に集中させることも重要です。
自分自身の健康は自分で守りつつ、からだの軽い症状のときは、OTC医薬品などを用いながら適切に実践することが大切です。
(3) セルフメディケーション税制の対象となる人
セルフメディケーション税制の適用を受けようとする年分に、「健康の保持増進及び疾病の予防に関する一定の取組」を行っている人が対象となります。
一定の取組とは、次の取組をいいます。
① 保険者(健康保険組合等)が実施する健康診査【人間ドック、各種健(検)診等】
② 市区町村が健康増進事業として行う健康診査
③ 予防接種【定期接種、インフルエンザワクチンの予防接種】
④ 勤務先で実施する定期健康診断【事業主検診】
⑤ 特定健康診査(いわゆるメタボ検診)、特定保健指導
⑥ がん検診(市区町村が健康増進事業として実施)
※1 申告される方が一定の取組を行っている必要があります(申告される方と生計を一にする配偶者その他の親族の方が「一定の取組」を行っている必要はありません。)。
※2 「一定の取組」に要した費用は控除の対象となりません。
(4) セルフメディケーション税制の対象医薬品の範囲
①対象医薬品
この制度は、すべての市販薬が対象ではなく、指定されたOTC医薬品にのみ適用されます。対象医薬品は、下記の医薬品とされています。
①医師によって処方される医療用医薬品から、薬局やドラッグストア等で購入できる医薬品に転用された医薬品(スイッチOTC医薬品)
②令和4年以降に購入された医薬品でスイッチOTC医薬品と同種の効能又は効果を有する一定の医薬品
対象の医薬品については、当初は医療用から転用(スイッチ)された医薬品として厚生労働省が指定した医薬品「スイッチOTC医薬品」に限られていましたが、2022年以降は「スイッチOTC医薬品」以外も認められるようになりました。
具体的な対象医薬費品の一覧は、厚生労働省ホームページをご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000124853.html
②スイッチOTC医薬品とは
OTC医薬品とは、薬局のカウンター越し(Over The Counter)に購入できる市販の医薬品のことです。
医師の処方が必要だった医療用医薬品のうち、副作用が少なく安全性の高いものを市販薬(OTC医薬品)に転用(スイッチ)したものを「スイッチOTC医薬品」といいます。
※セルフメディケーション税制の対象とされる医薬品は、購入した際の領収書(レシート)に控除対象であることが記載されています。また、対象品目に含まれる医薬品については、箱などにセルフメディケーション税制のマークが記載されていますので、一目で判断することができます。
(5)所得から控除される額
セルフメディケーション税制では、医薬品の購入金額から12,000円を引いた額が課税所得から控除されます。
なお、控除されるのは、最高8万8,000円までです。
(6)手続・必要な書類
セルフメディケーション税制の適用を受けるためには、次の書類の提出が必要です。
① セルフメディケーション税制を適用し計算した確定申告書
② 「セルフメディケーション税制の明細書」
③ 対象医薬品を購入した際の領収書
④ 一定の取組を行ったことを明らかにする書類
・ インフルエンザの予防接種又は定期予防接種(高齢者の肺炎球菌感染症等)の領収書又は予防接種済証
・ 市区町村のがん検診の領収書又は結果通知表
・ 職場で受けた定期健康診断の結果通知表
「定期健康診断」という名称又は「勤務先(会社等)名称」が記載されている必要があります。
・ 特定健康診査の領収書又は結果通知表
「特定健康診査」という名称又は「保険者名(ご加入の健保組合等の名称)」が記載されている必要があります。
・ 人間ドックやがん検診をはじめとする各種健診(検診)の領収書又は結果通知表
「勤務先(会社等)名称」「保険者名(ご加入の健保組合等の名称)」が記載されている必要があります。
⑤ 書類の5年間保管
確定申告の際に、レシートを添付する必要はありませんが、対象医薬品を購入した際の領収書及び一定の取組を行ったことを明らかにする書類は、自宅で5年間保管する必要があります。
4.医療費控除とセルフメディケーションの関係
ここで、医療費控除とセルフメディケーション税制は併用できないという点に注意しましょう。
医療費控除とセルフメディケーション税制は、どちらか一方の制度しか利用できないため、両方に該当する場合は、どちらか一方を選択して制度を利用しましょう。
セルフメディケーション税制の対象となる市販薬は、医療費控除の対象にもなっていますが、通常の医療費控除との併用はできないのでくれぐれも注意しましょう。
両者の試算をしてみて控除額が大きい方を選択しましょう。セルフメディケーション税制の上限は、8万8千円、医療費控除の上限は200万円となっていますので、医療費が多額の場合は、医療費控除の方が優位になります。
なお、医療費控除は、10万円の足きりがありますので、一般的には、医療費全体が10万円未満の場合は、セルフメディケーション税制を利用した方が有利となります。
また、セルフメディケーション税制は、健康の増進や病気予防のために一定の取り組みをしている人でないと対象にならないことも注意点です。