個人事業主とフリーランスの違いとは メリット・デメリットについても解説

個人事業主とフリーランスの違いとは メリット・デメリットについても解説

近年は働き方が多様化し会社から独立して働く人が増え、フリーランスまたは個人事業主として働く人が増えていますが、この両者は、混同されやすい言葉です。

「フリーランス」とは、働き方を指します。特定の企業などに属さずに自分一人で仕事を契約する働き方又はその人のことを指します。求められるスキルなどを契約ごとに提供し、その対価として報酬を受け取るという働き方です。

一方、「個人事業主」は税務署に開業届を提出し、個人で事業を行っている人を指します。フリーランスが働き方を表すのに対し、個人事業主は税務上の区分となります。

この記事では、個人事業主とフリーランスの定義と両者の違い及び各々のメリット・デメリットについて解説します。

 

1.フリーランスとは

フリーランスは特定の企業に属することなく、仕事の案件ごとに契約を結んで業務を遂行する「働き方」を指します。求められるスキルなどを契約ごとに提供し、その対価として報酬を受け取るという働き方です。

 

フリーランス新法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)が、令和6年(2024年)11月1日に施行されました。フリーランス新法の目的は、組織に所属せずに個人で働くフリーランス事業者が、発注者との間で対等な立場で安心して働ける環境を整備するという点です。

 

フリーランス新法の条文においては、次のようにフリーランスを定義しています。

【フリーランス新法上のフリーランスの定義】(政府広報より引用)

この法律で言う「フリーランス」とは、「業務委託の相手方である事業者であって、従業員(※1)を使用しないもの」をいいます。

自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得ている個人だけではなくて、一人社長といったような形態で事業を行う法人も該当します。

具体的には、デザイナー、カメラマン、イラストレーター、システムエンジニアといった方々はフリーランスとしてイメージしやすいですが、建設業、配送業、理容師、美容師、インストラクター、講師、営業職など、様々な分野・業種で企業に雇われずに個人で仕事を請け負っているかたも、従業員を使用していなければ、この法律のフリーランスに当たります。

※1:「従業員」には、短期間・短時間などの一時的に雇用される者は含まれません。具体的には「週所定労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」が「従業員」となります。

https://www.gov-online.go.jp/article/202408/entry-6301.html#firstSection

 

つまり、フリーランスとは特定の会社や団体に所属せず、また、人を雇わずに自らの技能を活かして仕事を請け負う個人を指すと言えます。

フリーランスは、企業と雇用契約を結ぶのではなく、プロジェクトや案件ごとに業務委託契約を行います。

2.個人事業主とは

個人事業主とは、法人を設立せずに、個人で独立した継続的な「事業所得」を得ている人を指す税法上の区分です。事業主1人のみで事業を行う場合だけでなく、家族や従業員を雇用している場合でも、それが法人形態でないなら個人事業主となります。

 

個人事業主は、経営している人が権利業務の主体となり、個人名で財産を保有したり、契約を締結したりするのが一般的です。

 

個人事業主として事業を開始したときは、管轄の税務署に原則として1ヵ月以内に「開業届」を提出する必要があります。

フリーランスとして働いている人が税務署に開業届を出すと、税務上「個人事業主」に分類されます。個人事業主が納めるべき主な税金は、所得税・住民税・消費税・個人事業税です。

 

個人事業主においては、職種・業種・業態に限定はありません。

3.個人事業主とフリーランスの相違点

個人事業主とフリーランスは特定の企業や団体に属さないという点で共通しており、混同されがちです。

では、個人事業主とフリーランスの違いはどこにあるのか、以下、解説します。

 

仕事の内容の違い

フリーランスとは自分のスキルを活かして企業から仕事を請け負う働き方のことです。

 

一方、個人事業主の場合は必ずしも「仕事の請負」をしているとはいえない場合もあります。

例えば飲食店を構えて運営している個人事業主を、「フリーランス」といえるでしょうか。

飲食店を経営する上で食料品店や酒屋から仕入れをしますが、これは食料品店や酒屋から仕事を請け負っているわけではありませんし、お客様から料理を請け負っているわけでもありません。美容院や和菓子屋なども同じです。

 

このように、個人事業主においては、職種・業種・業態に限定はありません。飲食店からシステムエンジニア、デザイナーやイラストレーターなどのクリエイティブ職まで、税務署に開業届を出してさえいれば個人事業主になることができます。この点が、個人事業主とフリーランスとの相違点となります。

 

従業員を雇う個人を含むかどうか

    内閣府や中小企業庁の定義では、「従業員を雇用している個人」はフリーランスには含まれません。このことは、一般的なイメージでも同じです。

     

    一方、個人事業主は、一人で働く場合だけでなく、従業員を雇うこともあります。

     

    法人を設立した場合を含むかどうか

    フリーランスは、仕事の案件ごとにスキルや成果物を提供し、その対価として報酬を得ます。自身の専門知識やスキルを提供して単独で仕事をする個人であれば、職種を問わず誰でもフリーランスでるといえます。

     

    フリーランスの人が開業届を税務署に提出し、個人事業主として働いていた場合を考えます。この人が、法人を設立してそのまま人を雇わずに仕事をしたとしても働き方自体は変わらないはずです。

     

    つまり、法人を設立していてもしていなくても、仕事の案件ごとに契約を結んで業務を遂行する働き方であれば、フリーランスであるといえるのです。

     

    実店舗がある場合は

    内閣府や中小企業庁の定義では、実店舗を持たないことがフリーランスの条件の一つとされています。

    実店舗を持つ個人は個人事業主であり、フリーランスではありません。

    上記①の場合と同様、飲食店や美容院は、フリーランスのイメージからは外れます。

    4,個人事業主のメリット・デメリット

    会社員として働く、または法人を設立する場合と比べ、個人事業主には次のようなメリットがあります。また、デメリットについても確認します。

    (1)個人事業主のメリット

    ①開業などの手続きが簡単

    法人を設立する場合、登記のために多くの書類を準備したり、法定費用がかかりします。

     

    一方、個人事業主として開業する場合は、登記が不要のため、法人のような煩雑な手続きや費用は発生せず、1ヵ月以内に税務署へ開業届の提出をするだけで済みます。

     

    また、事業の追加や変更、廃止も原則として登記が不要でいつでもできるという手軽さがあります。

    さらに、個人事業主の確定申告は、法人の確定申告に比べて提出すべき書類が少ないため、申告の手間が少なくなります。

    ②青色申告を選択できる

    開業届を出す場合に、「所得税の青色申告承認申請書」も一緒に提出すれば、確定申告において青色申告することができます。(所得税の青色申告承認申請書の提出は、原則として開業日から2ヶ月以内)

     

    青色申告なら、要件を満たすことで最大65万円の所得控除が受けることができます。さらに、赤字を3年間繰り越しできます。

    節税効果の高い青色申告を利用できることは、個人事業主として最大のメリットと言えます。

    ③所得額が少ない場合は法人よりも節税できる

    個人事業主は所得税、法人は法人税を支払います。個人事業主の場合、一定の所得額を超えるまでは法人税よりも低い税率が適用されるため、個人事業主の方が節税メリットがあります。

     

    (2)個人事業主のデメリット

    ①自分で確定申告しなければならない

    会社員であれば、会社が税金や社会保険料を給料から天引きして代わりに納めてくれます。そして、年末調整で過不足を調整してくれます。

     

    しかし、個人事業主は自分で記帳して集計し税額計算をしたうえで、所得税の確定申告を行わなければなりません。また、所得税や住民税、健康保険料に加え、業種や条件によっては「個人事業税」や「消費税」も自分で支払う必要があります。

     

    また、個人事業主になると、確定申告だけでなく日々の経理作業や資金管理も自分でしなければなりません。

    ②税率が高くなることがある

    個人事業主の負担する所得税は、累進税率でるため、所得が高額になるほど税率が高くなります。そのため、所得が高額である場合、納付する所得税・住民税の税負担率が高くなり、課税の面で法人よりも不利となることがあります。

     

    ③社会的信用が低い

    開業・廃業が簡単に行える個人事業主の対外的な信用は法人よりも低く見られる傾向があります。大企業のなかには信用面を理由に、個人事業主との契約を避ける場合もあります。

    したがって、取引先や業種・業態によっては個人事業主として開業するよりも、法人を設立した方が信用面で有利になる場合があります。

    ④法人に比べると経費にできる範囲が狭い

    個人事業主は、法人に比べると経費にできる範囲が狭くなります。

     

    たとえば、法人なら社長自身の給料を計上でき、家族の給料も計上しやすいです。

    法人なら役員の出張手当、社長自身や親族従業員への退職金、生命保険なども経費にできる場合があります。

    社会保険料を全額支払う必要がある

    会社員なら会社が社会保険料の半額を負担してくれますが、個人事業主の場合は全額を自分で支払うので負担が大きくなります。また、病気などで働けなくなった時の保障や将来の年金が手薄になるなどのデメリットもあります。

    ⑥雇用保険や労災保険に加入できない

    個人事業主は、労働者でないので、自身は雇用保険や労災保険に加入できない点がデメリットです。

     

    例えば、事業に失敗したとしても雇用保険に加入していないので、失業手当を受給することができません(事業開始前や事業中に雇用保険に加入していて、受給資格があれば別)。

     

    また、事業を行う中でケガをしたとしても、労災保険を受給することができません。

    そのため、これらのリスクに備えるためには、任意保険に加入しておくか、労災保険の場合、利用者は限られますが、特別加入制度を利用しておく必要があります。

    5. フリーランスのメリット、デメリット  

    (1)フリーランスとして働くメリット

    作業時間や場所の自由度が高い

    フリーランスであれば、契約時に稼働時間や連絡方法などの条件を詰めて決めておくことで、自分の好きな仕事だけ受けることができますし、働く時間や場所も自由に決められます。業務の幅を広げる、自分の都合で優先順位を決めることなどもできます。

     

    さらに在宅ワーク可能な案件の場合は、通勤の必要がなく、自宅やカフェなど好きな場所で作業ができるのもメリットです。

    自分の好きなタイミングで、得意な領域やチャレンジしたい内容など希望に合う案件を選んで参画できます。

    努力やスキル次第で高収入が期待できる

    会社員は、ほとんどが固定給です。また成果を重んじる人事評価もあり、収入が仕事量や責任の大きさに見合わず、不満が募る人も多いでしょう。

     

    フリーランスとして実力を発揮することで、納得できる成果報酬を得られる可能性は高まります。

    ③人間関係に悩まされにくくなる

    フリーランスであれば、人間関係に悩まされにくくなる傾向があります。会社のような上下関係などが発生しないため、上司、先輩、同僚との人間関係に悩まされることもなくなります。

     

    また、もし相性が悪い仕事相手がいたとしても、今後そのクライアントとは契約をしないという選択ができるため、嫌な関係が長引かないのも魅力だといえます。

    ④複数社から同時に報酬を得られる

    フリーランスが業務委託契約を結ぶ場合、複数のクライアントと契約を結ぶことも可能です。同時に複数社と契約することができれば、収入源が一つの企業に限定されないため、収入を増やすことが期待できます。

     

    また、特定のクライアントからの契約終了や業務削減による収入減少リスクを分散できる点もこの働き方のメリットです。さらに、異なるクライアントと契約することで、幅広い経験を積み、新たなスキルを習得することが望めます。

    (2)フリーランスとして働くデメリット

    ①収入が安定しにくい

    フリーランスは、成果をあげた分だけ報酬を受け取れます。逆に、案件を受注できないと収入はゼロです。大きな案件が続いた時は収入が高くなりますが、常に、仕事があるとは限りません。

    フリーランスとして開業早々から仕事が十分に確保できる保証はなく、安定するまでには、時間がかかることもあり得ます。

    また、成果を出さないと継続して依頼されないため、常にスキルアップが必要な働き方でもあります。

     

    さらに、業務委託契約は、一般的に契約期間が明確に定められており、依頼主の都合で契約が途中で打ち切られるリスクも伴います。

    特に、契約書で途中解約の条件や通知期間が明記されていない場合、依頼主が予告なしに契約終了を通告する可能性もあります。これにより、収入が突然途絶える事態に直面するケースもありえます。

    この点は、個人事業主も同様です。

    ②労働基準法が適用されず最低賃金が保障されない

    業務委託契約は雇用契約ではないため、労働基準法が適用されません。

    その結果、最低賃金や労働時間の制限といった保障がないため、報酬額が非常に低くなるリスクがあります。特に、契約前に報酬の計算方法や支払条件が十分に交渉されていない場合、業務量に対して不公平といえる低額報酬が支払われる可能性もあるでしょう。

    この点は、個人事業主も同様です。

    ③税務処理などの事務作業を自分で行う必要がある

    フリーランスとして業務を行う場合、確定申告や住民税や所得税などの納税手続きなどの作業を自分で行う必要があります。

     

    雇用契約の場合は、源泉徴収や年末調整を雇用主が代行してくれますが、フリーランスの場合は、自分で確定申告を毎年行う必要があるため、最低限の税務知識を習得しておくことも必要です。

    この点は、個人事業主も同様です。

    生活のリズムが崩れやすい

    自由な時間に働けることから、夜型の生活が基本となり、不規則な生活リズムになってしまう恐れがあります。規則正しい生活や、徹底したスケジュール管理を心がけると良いでしょう。

    • ⑥社会的信用度が低い

    会社員は、継続的に会社との雇用契約が見込まれ収入が安定しているなどの面から、社会的信用度が高いです。

     

    一方、フリーランスは会社という大きな後ろ盾がないため、社会的に見て信用度が低いとされています。ローンやクレジットカード、不動産などでの審査において、会社員よりも厳し目に判定されることがあるようです。

    例えば、転居で賃貸物件を借りる場合、収入が少なければ保証会社の審査書類として預金残高がわかる資料の提出も必要となります。この点は、個人事業主と同じといえます。

    6.まとめ

    フリーランスあるいは個人事業主には、会社に勤めながら副業として個人ビジネスを営んでいるケースも見られます。しかし、フリーランスも個人事業主も個人ビジネス上は、「企業と雇用契約を結ばない」という点で共通しており、労働基準法の保護を受けられません。個人ビジネスの事業上のリスクは、すべてその個人にのしかかかってきます。

     

    これに対し、法人として事業を行った場合は、事業に関する権利や義務は個人から切り離されるため、事業が失敗しても、個人へのダメージをある程度抑えることができます。

    一般的に、所得が800万円~900万円になった辺りから、個人事業主から法人へ切り替えることを検討すべきと考えられます。

    なぜなら、所得がこの辺りになった以降は、法人化した方が、税金や社会保険料の負担を軽くできる可能性があるからです。