ゼロから学ぶ経理入門~その9~ 見越し・繰延べについて徹底解説

ゼロから学ぶ経理入門~その9~ 見越し・繰延べについて徹底解説

ゼロから学ぶ経理入門~その9~ 見越し・繰延べについて徹底解説

 

こんにちは。

決算整理仕訳の中でも、費用・収益の見越し繰延べは、初めて学ぶ人にとって混乱しやすいポイントですよね。特に、「前払費用」「未払費用」「未収収益」「前受収益」は、名前が似ているので、どれがどれだかわからなくなることも…。でも大丈夫! それぞれの意味と考え方をしっかり整理すれば、スッキリ理解できます。この記事では、具体例を交えながら、わかりやすく解説していきますので、一緒に学んでいきましょう!

 

1.見越しと繰延べの違いとは? まずは基本を押さえよう!

企業の決算処理では、「見越し」と「繰延べ」という考え方がとても重要になります。しかし、これらの違いが分かりにくいと感じる人も多いのではないでしょうか?
この記事では、「見越し」と「繰延べ」の基本的な意味や、それぞれの仕訳の考え方を分かりやすく解説していきます。

決算整理仕訳では、会計期間ごとに適切な収益や費用を計上する必要があります。
ここで重要になるのが「発生主義」の考え方です。発生主義とは、「収益や費用は、実際の現金のやり取りではなく、発生したタイミングで認識する。」というルールのことです。

この発生主義に基づき、収益や費用を適切に調整する方法が「見越し」と「繰延べ」です。

 

【見越し(みこし)

発生した収益や費用を、未払い・未受取の状態でも、当期の会計期間に計上する処理を指します。たとえば、当期に発生したがまだ支払っていない費用(未払費用)や、当期に発生したがまだ受け取っていない収益(未収収益)などが該当します。これは、企業の財務状況を正確に把握するために重要な処理です。

 

【繰延べ(くりのべ)

すでに支払いや受け取りが済んでいるものの、収益や費用を発生した会計期間とは、別の期間に計上する処理を指します。たとえば、来期分の家賃を前もって支払った場合は「前払費用」、まだサービスを提供していないのに受け取った料金は「前受収益」として処理します。これは、収益や費用を正しい期間に対応させるために重要な考え方です。見越しとは反対のアプローチで、適切な期間に正しく計上するために行われます。

 

「見越し」は発生主義に基づいて計上するもので、「繰延べ」は実際の支払いや受取のタイミングに応じて調整するものです。

 

2. 見越しとは?(未払費用・未収収益)

(1)未払費用 → すでに費用が発生したが、支払いが後になる場合。

未払費用とは、すでに発生した費用であるにもかかわらず、支払いが翌期になる場合に計上します。支払いは翌期に行われますが、費用自体は当期に発生しているため、当期の費用として計上する必要があります。仕訳のタイミングとしては、「翌期に支払うが、当期の費用となる部分を計上する。」となります。

 

例】12月分の家賃を翌年1月に支払う場合
企業が賃貸オフィスを借りていて、12月分の家賃を翌年1月に支払う場合、費用自体は12月に発生しています。しかし、支払いは翌年になるため、12月の決算時に「未払費用」として計上します。

仕訳(12月31日)

(借方)地代家賃 100,000円 (貸方)未払費用 100,000円  

費用を計上し、未払分を負債として記録する。

仕訳(1月の支払い時)

(借方)未払費用 100,000円 (貸方)現金 100,000円  

未払費用を消し込み、実際に支払いを行う。

 

未払費用のポイント】

費用は当期に発生しているため、決算時に負債として計上する。
・支払いが翌期にずれ込んでも、当期の費用として認識する。

 

(2)未収収益 → すでに収益が発生したが、入金が後になる場合。

未収収益とは、収益がすでに発生しているのに、まだ入金されていない場合に計上します。収益は当期に計上し、未収分を「未収収益」として資産に計上します。仕訳のタイミングとしては、「決算時に、未収収益分となる部分を計上する。」とします。

 

例】貸しビルの家賃を翌期に受け取る場合
企業がビルを貸しており、12月分の家賃150,000円を翌年1月に受け取るとします。この場合、家賃収益自体は12月に発生していますが、実際の入金は翌期になります。そのため、「未収収益」として処理します。

仕訳(12月31日)

(借方)未収収益 150,000円 (貸方)賃貸収益 150,000円  

収益を計上しつつ、未収の部分を「未収収益」として資産に計上します。

仕訳(1月の入金時)

(借方)現金 150,000円 (貸方)未収収益 150,000円  

実際に入金があったタイミングで、未収収益を消し込みます。

 

【未収収益のポイント】

収益はすでに発生しているため、当期の決算時に計上する。
・未収分を「未収収益」として資産計上し、入金時に消し込む。

 

3. 繰延べとは?(前払費用・前受収益)

(1)前払費用 → まだ費用が発生していないが、先に支払った場合。

前払費用とは、費用として支払ったものの、まだその期間に該当しないため、翌期の費用になる部分です。支払い自体は行われていますが、その費用の一部または全部が翌期に該当するため、一旦「前払費用」として資産計上します。仕訳のタイミングとしては、「すでに支払っているが、翌期の費用になる部分を調整する。」となります。

 

例】1年分の保険料を一括払いした場合
ある企業が、1年分(4月~翌年3月)の保険料120,000円を4月に支払ったとします。決算が12月の場合、翌年1月~3月分(3か月分)の保険料30,000円(120,000円 ÷ 12か月 × 3か月)は翌期の費用になります。

仕訳(4月の支払い時)

(借方)保険料 120,000円 (貸方)現金 120,000円  

すべて「保険料」として処理しますが、決算時には翌期分を調整する必要があります。

決算時(12月31日)翌期分を前払費用に振り替え

(借方)前払費用 30,000円 (貸方)保険料 30,000円  

翌年1月~3月分の費用を、前払費用として計上します。

翌年1月(前払費用を費用に振り替え)

(借方)保険料 30,000円 (貸方)前払費用 30,000円  

翌期に入ったら、前払費用を費用に戻します。

 

【前払費用のポイント】

翌期の費用に該当する部分を、資産として計上する。
決算時に適切に調整し、翌期に費用として計上する。

 

(2)前受収益 → まだ収益が発生していないが、すでに入金された場合。

前受収益とは、収益をすでに受け取っているものの、その収益の一部または全部が翌期に該当する場合に計上するものです。仕訳のタイミングとしては、「決算時に、翌期分を負債として計上する。」となります。

 

例】半年分の家賃を前払いで受け取った場合
企業がテナントから半年分(10月~翌年3月)の家賃600,000円を、10月に前払いで受け取ったとします。決算時点(12月末)で翌期の3か月分(1月~3月分)300,000円は翌期の収益となるため、「前受収益」として処理します。

仕訳(10月の受取時)

(借方)現金 600,000円 (貸方)賃貸収益 600,000円  

この時点では、全額を収益として処理しますが、決算時に調整が必要です。

決算時(12月31日)翌期分を前受収益に振り替え

(借方)賃貸収益 300,000円 (貸方)前受収益 300,000円  

翌期の分を、前受収益(負債)として計上します。

翌年1月(前受収益を収益に戻す)

(借方)前受収益 300,000円 (貸方)賃貸収益 300,000円  

翌期に入ったら、前受収益を収益として戻します。

 

【前受収益のポイント】

・収益はまだ発生していないため、翌期分を「前受収益」として負債計上する。
翌期に入ったら、前受収益収益として戻す。

 

4. 見越しと繰延べのまとめ

区分 内容  具体例
未払費用 発生済み、未払いの費用。 未払いの家賃や水道光熱費
未収収益 発生済み、未収の収益。 貸しビルの家賃が未入金
前払費用 先払い、まだ発生していない費用。 1年分の保険料のうち翌期分
前受収益 先受け、まだ発生していない収益。 半年分の家賃のうち翌期分

 

5.見越し・繰延べの理解を深めるポイントと注意点

決算整理仕訳では、「見越し」と「繰延べ」の考え方が重要です。しかし、どの勘定科目を使うべきか、仕訳のタイミングを間違えやすいなど、実務では混乱することも多いでしょう。本記事では、「見越し・繰延べ」の理解を深めるためのポイントや注意点を解説し、間違えやすいケースを整理していきます!

 

(1)前払費用と未払費用を混同しない

・前払費用 → 先に支払っているが、翌期の費用となるもの。<資産>

・未払費用 → すでに発生しているが、まだ支払っていないもの。<負債>

【間違えやすい例】
×:間違い 「12月分の家賃を、1月に支払うので前払費用を計上する。」
〇:正解 「12月分の家賃は、未払費用として計上する。」

 

(2)未収収益と前受収益を間違えない

・未収収益 → すでに発生したが、まだ受け取っていない収益。<資産>

・前受収益 → まだ発生していないが、先に受け取った収益。<負債>

【間違えやすい例】
×:間違い 「来月受け取る予定の売上代金を、未収収益として計上する。」
〇:正解 「売上代金は未収収益ではなく、売掛金で処理する。」
→ 未収収益は、「利息」や「家賃収益」のように期間をまたぐ収益に適用される。

 

(3)決算整理仕訳を忘れない

決算時に調整仕訳を忘れると、収益や費用の計上がズレてしまいます。特に以下のようなケースに注意が必要です。

・未払費用を計上せず、支払い時にのみ費用計上してしまう。

・前払費用を資産に振り替えず、全額を当期の費用として計上してしまう。

・前受収益を調整せず、翌期の収益まで当期に計上してしまう。

 

【チェックポイント】
未払費用未収収益当期の費用・収益として計上する。
前払費用前受収益翌期の費用・収益に振り替える。

 

6. おわりに

「見越し」と「繰延べ」は、決算整理仕訳の中でも重要な考え方ですが、初めて学ぶ人にとっては混乱しやすいポイントです。しかし、それぞれの意味と仕訳のタイミングを整理すれば、正しく理解することができます。

「見越し」は、発生主義に基づき、当期に発生した収益や費用を計上する処理です。未払費用や未収収益がこれに該当し、未払費用は「支払いが翌期になるが、費用は当期のもの。」、未収収益は「入金が翌期になるが、収益は当期のもの。」と考えます。

「繰延べ」は、すでに支払いや受取が完了しているものの、実際には翌期に該当する収益や費用を調整する処理です。前払費用や前受収益がこれに該当し、前払費用は「支払い済みだが、翌期の費用に該当するもの。」、前受収益は「受け取り済みだが、翌期の収益に該当するもの。」となります。

決算整理仕訳では、これらを適切に処理しないと、会計期間ごとの正確な財務状況が把握できなくなってしまいます。特に、未払費用と前払費用、未収収益と前受収益を混同しないよう注意が必要です。また、決算時の仕訳を忘れると、翌期の財務数値にズレが生じる可能性があるため、見落としがないようチェックしましょう。

実際の会計処理では、取引の内容や支払い・受取のタイミングをしっかり確認しながら、適切な勘定科目を選び、仕訳を行うことが大切です。簿記の基本を押さえ、見越しや繰延べを正しく理解することで、よりスムーズに決算処理を進めることができるようになります。