ゼロから学ぶ経理入門~その3~ 簿記の基本用語を解説します

ゼロから学ぶ経理入門~その3~
こんにちは。
前回は、企業の経理業務に欠かせない「簿記」について解説しましたが、今回は、さらにもう一歩踏み込んで、「仕訳」や「勘定科目」、「貸借対照表」や「損益計算書」などについて解説します。これらの基本を理解することで、会社のお金の流れや財務状況を正確に把握できるようになります。
本記事では、初心者にもわかりやすく、経理で押さえるべき基本用語や簿記の仕組みを解説します。特に「借方・貸方」のルールや、単式簿記と複式簿記の違いについて詳しく紹介します。経理や会計の知識を深めたい方は、ぜひ最後までご覧ください!
1. 経理で押さえるべき基本用語
簿記は、経理業務の基本中の基本です。企業のお金の流れを正確に記録・整理するためのルールを理解する必要があります。
(1)仕訳(しわけ)
仕訳とは、企業の取引において「いつ・何が・いくら」あったのかを記録する作業です。簿記の基本であり、お金やモノの動きを整理するために行います。仕訳を記録することで、企業の資産や負債、収益や費用を正確に管理できます。正しく仕訳を行うことで、決算書作成や経営分析がスムーズになります。
【例】お客様に商品を売り、代金を現金で受け取った。 → 「売上」と「現金」を記録
(2)勘定科目(かんじょうかもく)
勘定科目とは、取引内容を分類するための名前(項目)のことです。会社の財務状況を分かりやすくするために使われます。主に以下の5つのグループに分かれます。
①資産(現金、売掛金、建物 など) ②負債(借入金、買掛金 など) ③純資産(資本金、利益剰余金 など)
④収益(売上、受取利息 など) ⑤費用(仕入、給与、広告費 など)
例えば、商品を売ったときは「売上」、家賃を払ったときは「地代家賃」という勘定科目を使います。正しい勘定科目を使うことで、会社の財務状況が明確になり、経営判断がしやすくなります。
(3)貸借対照表(B/S:Balance Sheet)
貸借対照表は、会社の財産の状態をまとめた表です。会社が「どんな資産を持っているのか」と「その資産をどのように手に入れたのか(借金か自己資金か)」を示します。
<基本の形>
【資産】現金、建物、商品など、会社が持っているもの
【負債】借入金や未払金など、他人から借りているお金
【純資産】資本金や利益など、会社自身の資金
<計算式>
資産 = 負債 + 純資産
貸借対照表を見ることで、会社にどれだけの財産があるか、どれだけ借金があるかが分かります。つまり、会社の安全性や財務の健全性が分かります。
(4)損益計算書(P/L:Profit and Loss Statement)
損益計算書は、会社の「儲け」を示す決算書です。一定期間(例えば1年間)で「どれだけ売上があり」「どれだけ費用がかかり」「最終的にいくら利益が出たのか」を表します。基本の構成は以下の通りです。
①売上高(会社が得た収益) ②売上原価(商品を作るためのコスト)
③売上総利益(粗利)=売上高-売上原価 ④営業利益=売上総利益-販売費・管理費
⑤経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用 ⑥当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失-税金
例えば、100万円の売上があり、仕入れに50万円、人件費に20万円かかった場合、営業利益は30万円になります。
損益計算書を分析することで、会社が利益を出せているか、どこにコストがかかっているかを把握できます。または、会社がどれくらい儲かっているのか、あるいは赤字なのかを確認できます。
(5)キャッシュフロー
キャッシュフローとは、お金の流れを示す指標です。どれだけの現金が入ってきて、どれだけ出ていったのかを把握することで、企業の資金繰りの健全性をチェックできます。キャッシュフローは、次の3つに分かれます。
【営業キャッシュフロー】本業での現金の動き(売上、仕入れ、給与支払いなど)
【投資キャッシュフロー】設備投資や資産売却による現金の動き(機械購入、不動産売却など)
【財務キャッシュフロー】借入や返済、株主への配当などの現金の動き(銀行借入、配当支払いなど)
例えば、会社が黒字でも、売掛金の回収が遅れ現金が不足すると、倒産のリスクが高まります。そのため、利益だけでなくキャッシュフローの管理も重要です。企業が安定して成長するためには、キャッシュフローを健全に保つことが必要です。
2.簿記の仕組みを知ろう!「借方」と「貸方」のルール
簿記の勉強を始めると、必ず出てくるのが「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」という言葉です。最初は「左が借方で右が貸方?」と戸惑うかもしれませんが、これは簿記の基本ルールであり、お金や財産の増減を整理するための仕組みです。
今回は、簿記の「借方」と「貸方」について、初心者にもわかりやすく解説します!
(1)簿記とは?「借方」と「貸方」の役割
簿記では、すべての取引を「仕訳(しわけ)」という形で記録します。その際に重要なのが 「貸方(かしかた)」と「借方(かりかた)」 というルールです。
- 借方(左側) → お金の増加や費用
- 貸方(右側) → お金の減少や収益
これだけでは、「借方」と「貸方」、どっちが左でどっちが右か迷うことが多いですよね。そこで、漢字の形を利用した覚え方を紹介します!
※文字の払いに注目!
「借方(かりかた)」の「り」 → 左にはらう!だから左側!
「貸方(かしかた)」の「し」 → 右にはらう!だから右側!
このルールに従えば、直感的に「借方=左」「貸方=右」と覚えられます。
例えば、会社が現金100万円を銀行から借りた場合、仕訳はこうなります。
借方(左側) | 貸方(右側) |
現金 100万円 | 借入金 100万円 |
取引は必ず「お金を払った側」と「お金を受け取った側」に分かれます。その関係を記録するために、以下のようなルールが決められています。
借方(左側) | 貸方(右側) |
資産の増加 | 資産の減少 |
負債の減少 | 負債の増加 |
費用の発生 | 収益の発生 |
このように、簿記ではすべての取引を「借方=貸方」のバランスが取れた形で記録します。
(2)「借方」「貸方」の具体例
では、具体的な取引を例にして、「借方」と「貸方」の仕組みを見ていきましょう。
① 現金で商品を仕入れた(10万円)
お店が仕入れた商品は資産として増え、一方で支払った現金は減ります。この取引を仕訳すると…
借方(左側) | 貸方(右側) |
仕入 10万円 | 現金 10万円 |
- 仕入(資産)は増えるので「借方」
- 現金(資産)は減るので「貸方」
② 商品を販売し、現金で代金を受け取った(15万円)
お店が商品を売り、売上を得た場合、現金が増え、売上(収益)も発生します。
借方(左側) | 貸方(右側) |
現金 15万円 | 売上 15万円 |
- 現金(資産)は増えるので「借方」
- 売上(収益)は増えるので「貸方」
③ 従業員の給料を銀行振込で支払った(30万円)
給料を支払うと、会社のお金が減り、費用として計上されます。
借方(左側) | 貸方(右側) |
給料(給与手当)30万円 | 普通預金 30万円 |
- 給与手当(費用)は発生するので「借方」
- 普通預金(資産)は減るので「貸方」
(3)借方・貸方を覚えるコツ
簿記初心者が「借方」「貸方」で混乱する理由の一つは、「貸方=収入、借方=支出」と思い込んでしまうことです。しかし、実際は「増える」「減る」は勘定科目によって異なるので、以下のポイントを押さえておきましょう!
★借方にくるもの(左側)
- 資産の増加(現金、売掛金、土地、備品など)
- 負債の減少(借入金の返済など)
- 費用の発生(給与、家賃、広告費など)
★貸方にくるもの(右側)
- 資産の減少(現金を支払う、備品を売るなど)
- 負債の増加(借入金、買掛金など)
- 収益の発生(売上、受取利息など)
このルールを理解していれば、どんな取引でも仕訳を考えることができます!
3.簿記の種類とは?単式簿記と複式簿記の違い
簿記には、大きく分けて「単式簿記(簡単な記録方法)」と「複式簿記(企業が使う記録方法)の2種類があります。単式簿記は主に個人や小規模な事業で使われ、家計簿のようなシンプルな記録方法です。一方、複式簿記は企業で一般的に使われる方法で、すべての取引を「借方」と「貸方」に分けて記録し、正確な財務管理を可能にします。
この記事では、単式簿記と複式簿記の違いをわかりやすく解説し、それぞれのメリット・デメリットについても紹介します。
(1)単式簿記とは?
① 単式簿記の概要
単式簿記とは、収入と支出だけをシンプルに記録する方法です。日々の現金の出入りを記録するだけなので、家計簿や小規模事業の収支管理に向いています。
例えば、以下のような形で記録します。
日付 | 内容 | 収入 | 支出 | 残高 |
1/1 | 売上 | 50,000円 | – | 50,000円 |
1/5 | 仕入 | – | 20,000円 | 30,000円 |
1/10 | 家賃 | – | 10,000円 | 20,000円 |
このように、単式簿記では「お金が入ったか、出たか」だけを記録します。
② 単式簿記のメリット
- シンプルで簡単に記録できる(簿記の知識がなくても使える)
- 家計管理や小規模な事業の収支管理に向いている
- 税務申告の際に「白色申告」で済む(簡単な申告でOK)
③単式簿記のデメリット
- 財務状況が正確に把握できない(資産や負債の管理ができない)
- 企業の経理には向いていない(法人や大規模な事業には不適切)
- 青色申告の控除が受けられない(個人事業主は税金のメリットが少ない)
単式簿記は、あくまで簡易的な記録方法であり、本格的な財務管理には向いていません。そこで、多くの企業や法人では、より正確な記録が可能な「複式簿記」を採用しています。
(2)複式簿記とは?
①複式簿記の概要
複式簿記は、すべての取引を「借方(左)」と「貸方(右)」に分けて記録する方法です。企業では、「資産」「負債」「収益」「費用」などを正しく記録するため、複式簿記という方法を使います。すべての取引を「借方」と「貸方」に分けて記録し、バランスを取るのが特徴です。この記録方法によって、企業の財務状況を正確に把握し、資産・負債・収益・費用のバランスを管理できます。
例えば、会社が商品を10万円で仕入れ、現金で支払った場合、次のように記録します。
借方(左側) | 貸方(右側) |
仕入 100,000円 | 現金 100,000円 |
このように、1つの取引を「借方」と「貸方」の両方に記録することで、お金の流れを正確に管理できるのが特徴です。
②複式簿記のメリット
- 財務状況を正確に把握できる(資産・負債・収益・費用の管理が可能)
- 企業経営に必須の方法(決算書の作成に必要)
- 青色申告による税制優遇が受けられる(個人事業主もメリットが大きい)
③複式簿記のデメリット
- 簿記の知識が必要(仕訳のルールを理解しなければならない)
- 記録が複雑で手間がかかる(小規模事業には負担になることも)
企業は、経営の透明性を確保し、税務申告を正しく行うために、必ず複式簿記を採用する必要があります。
(3)単式簿記と複式簿記の違いを比較
項目 | 単式簿記 | 複式簿記 |
記録方法 | 収入・支出のみ | 借方・貸方に分けて記録 |
対象 | 家計簿・小規模事業向け | 企業・個人事業主向け |
資産・負債の管理 | できない | できる |
財務諸表の作成 | 不可 | 可能(貸借対照表・損益計算書 |
税務申告の種類 | 白色申告 | 青色申告(税制優遇あり) |
難易度 | 簡単 | 簿記の知識が必要 |
(4)どちらを選ぶべき?適した簿記の選び方
☆家計管理・副業の簡単な収支記録をしたい → 単式簿記
☆小規模な個人事業をしていて、簡単な管理で済ませたい → 単式簿記(白色申告)
☆個人事業主・フリーランスで、税制優遇を受けたい → 複式簿記(青色申告)
☆会社の経営・財務管理をしたい → 複式簿記(法人は必須)
個人事業主で税金のメリットを受けたい場合は、複式簿記を採用して青色申告をするのがおすすめです。
4.おわりに
本記事では、経理業務に欠かせない簿記の基本用語や仕組みについて解説しました。企業のお金の流れを正確に記録し、財務状況を把握するためには、仕訳や勘定科目の正しい理解が必要です。貸借対照表(B/S)では、会社の資産・負債・純資産のバランスを確認でき、損益計算書(P/L)では、一定期間の利益やコストの詳細を把握できます。また、キャッシュフローを管理することで、黒字経営でも資金繰りの問題を防ぐことができます。
特に、簿記の基本である「借方・貸方」のルールを理解することは、正しい仕訳を行う上で重要です。資産の増加や費用の発生は借方(左)、負債の増加や収益の発生は貸方(右)に記録するという仕組みを押さえておけば、取引の仕訳がスムーズにできるようになります。
また、簿記には「単式簿記」と「複式簿記」があり、それぞれの特徴とメリット・デメリットを理解することが大切です。単式簿記は家計簿のように簡単な記録方法ですが、企業経営には向いていません。一方、複式簿記はすべての取引を借方・貸方に分けて記録するため、正確な財務管理が可能です。企業経営や税制優遇を受けたい個人事業主にとって、複式簿記の習得は大きなメリットになります。
簿記とは、お金の流れを正しく記録し、会社の財務状況を把握するためのルールです。
★「借方」と「貸方」で仕訳をする
★単式簿記と複式簿記がある
★財務諸表(貸借対照表・損益計算書)を作る基礎となる
簿記を学べば、お金の流れが分かるようになり、経営や日常生活にも役立つ知識が身につきます。簿記の知識を理解していくことで、財務状況の適切な管理が可能となり、経営判断の質も向上します。これから経理を学ぶ方や、スキルアップを目指す方は、ぜひ簿記の基本をしっかり押さえ、実務に活かしていきましょう。